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東部市場前

過去から来た猿

書きかけの艦これSS、その1。
昨年の秋にしばらく粘って書いてみたんだけど、とうとうギブアップしてそのままになっていた代物。続きを書くこともなさそうなので、供養としてここに掲載します。

鎮守府マルチ商法の嵐が吹き荒れる話


 海のくろい夜だった。
 霧島はざんぶざんぶと波をこいでいた。
 その姿は人型をとって巨大。腰まで海水に浸かって文字通り掻き分けるように夜闇の濃い大海原を往く。雲をも衝くかのごときその偉容は成程、艦娘の戦闘態勢と呼ぶにふさわしい。
 左舷にはやや離れて榛名。同じく水を切って進んでいるのが微かな影と水音から知れた。月も無い夜のこと、表情までは窺えなかったが、その存在だけでも霧島の心をいっとき安らがせるには十分であった。道行きの朋は多いに越したことはない。
 気の向かない戦いである。鎮守府随一の知能派にして武闘派、『インテリヤクザの霧島』の異名をとった(本人は甚だ不本意ではあったが)この女をして。
 敵を慄るるがためか―――――――否。
 敵が慄るるに足らぬためか――――否。
 さにあらず。興ののらない戦いなんぞまっぴらごめんなのだ。見せ物の興行だなんて。
「まったく、どうしてこんなことに……」
 どうもこうも、「奴ら」の片棒を担いだのがすべての過ちのはじまり。
 ケチのつきはじめはFXだった。慢性的に逼迫する鎮守府財政を抜本的に改善するために、経理操作でちょろまかした資金でこっそりオンライントレードに手を出したその矢先、深海棲艦の襲撃リスクに過剰反応したトレーダーの一斉売りで為替市場は世界的に暴落、たちまち追証で首が回らなくなって堪らず奴らに助けを求めたらあれよあれよという間に首根っこを押さえつけられてこの始末。おまけに榛名まで巻き添えにしてしまって、申し訳が立たないといったらない。文字通り首を吊る羽目にならなかっただけよかろうと内心囁く声もあったが、自分にもいっぱしの戦艦としての矜持はある。これならガチンコの戦闘で轟沈した方が億倍ましというものだ。
 データは完璧だったのだ。何事もなく事が運んでいれば月に数千万は叩き出してくれる。そういうプランを組んでいた。ただ運が悪かった。手持ちの資金が焼き切れてしまってはどうしようもない。あのタイミングでシドニー・サーバが半壊するだなんて誰が予想したろう。敵さんもまったく余計なことをしでかしてくれた。
 ぶつくさ呟きながら毎度の思考迷路を巡回していると、通信が入った。
「あんさーん。調子はよろしゅうおまん?」
 マネージャーの黒潮だった。
「調子も何も。さっさと終わらせて帰りたいわ」
「まーそんなつれないこと言わんといてーな、ボスも今日の試合には期待してるさかい」
「はいはい、わかってますよ。手ぇ抜いたりしませんから、心配しないでおいて」
「ホンマ、頼りにしてるで~。霧島さんのプロの仕事はウチらの間でも評判やさかい」
 試合前のゴキゲン取りというわけか、二言目にはこちらを褒めそやす。おなじみの手口にはうんざりだった。
「あ、そ。――もういいかしら、この先は海流が激しいから」
「あらら、そりゃー気が利かんですまんなあ。そんじゃー会場で。気をつけてーな。榛名ちゃんにもよろしゅう頼んますー」
 通信が終了し、霧島はほっとため息をつく。汗でずり下がったメガネをそっと直した。
 むろん海流はただの口実だ。そんなことは向こうも先刻承知だろう。海の上でもあのやり手マネージャーの耳ざわりな関西弁を聞かされるだなんて、大概勘弁してほしいというのが偽らざる本音である。
 気ののらない戦いでも、行路くらいはしずかに満喫したい。なんたって夜の海なのだから。
 通信を傍受していたにちがいない、霧島のそんな気持ちを察したのか榛名は何も話しかけてこなかった。
 ときおり左舷の僚艦に目を遣りながら、霧島は黙々と手足を動かした。



 鎮守府秘密闘技場。庁舎から秘密のエレベーターで地下五階へと降り立ち、一本道の殺風景な通路を抜けたその先、普段は人気もないその空間に、今夜ばかりは熱気が充満していた。
 差渡し二〇メートルくらいだろうか。打ちっぱなしのコンクリート壁が聳え立ち、円形の観客席に囲まれて中央には方形のリング。薄暗い座席を埋め尽くす艦娘たちの視線は無人のリングにひたと注がれ、その人が現れるのをいまかいまかと待ち構えている。
 と、スポットライトが点灯。会場の一端を指す。
 現れたのはちいさな駆逐艦だった。人型をとって花道をゆっくりと歩みゆき、ライトは忠実にその姿を追う。観客が待ち望んでいたのは果たしてこの娘か、場内を包む熱気は高まる一方であり、がまんしきれずはやくも叫び声を上げる者もあった。
 とうとうリングに辿り着き、四方に向けて順々にぺこり。顔を上げる。その眼は炯々。片手に提げたマイクの電源を入れ、勢いよく息を吸い込むと、

「今日は何の日――――!?」
『子日だよ――――――!!』

 会場が爆発した。あるいは、そう錯覚した者もあったろう。
 それほどの歓声であった。熱狂し腕を振り上げる人々。反響した声はいくえにも重なりあい、響きあって再帰的に会場の興奮を高めていく。土の温度を吸ってひんやりと冷たいコンクリートの内壁すら今はぬるまっていた。
 この日、鎮守府近隣に在住する文筆家・杉浦騒山の日記には次のように記されていたという。
 「■■年春正月甲子
  夜半、大地鳴動ス。左右、鼠ノ祟リカト大イニ噂ス」
               (『癸亥夜話』民明書房刊)

 そんな場にあって独り、衆人の熱気に戸惑い、茫然として立ち尽くす艦娘の姿があった。
 祥鳳型航空母艦一番艦。名を、祥鳳という。



 祥鳳は神奈川県横須賀のひとである。はじめ潜水母艦剣埼と名乗って海軍に出仕したが、ほどなくして名を改め、空母となって各地を転戦した。――否、開戦後半年を待たずして珊瑚海で敵艦載機の襲撃を受けて戦死した。亡骸はいまも海底に眠ると言われる。
 齢わずかに三つ。前の戦役、空母としては初の喪失であった。夭折というべきだろう。
 あるいはかかる前歴を持つためか、それとも本人の性分か。艦娘・祥鳳はその性朴訥、純朴として信じやすい性質であった。また他者との交わりを頻繁に求める傾向がある他方、どこか陰のある面立ちが人をして遠ざけしめ、知己はけして多くない。ざっくり、人の輪から孤立しがちな人格であった。
 彼女のかかる性質がその両足をして、地下闘技場に赴かしめたともいえよう――。



「さーて始まった『子日講』、新年第1回の今回は特別にスケールアップ!してお送りするよ。司会は子日! 今夜も張り切っていきましょう!」
 ――――歓声。
「今年も年が明けちゃったね。お正月はみんな、何してた? 子日はおもちいーっぱい食べたよ! ちょっと太っちゃったかも!」
 ――――歓声。
「ところでおもちもいいけど、みんな、『クッキーは焼けたかな』? お休みだからって焼くのをサボってた怠け者さんはいないかな? 今年も張り切って焼いていきましょう!」
 ――――もはや何を言おうと途切れることなく上がる歓声の渦。熱狂の中心にあって場を支配するのは分不相応とも思える小柄な体躯の娘ひとり。達者なマイクトークで司会進行を順調に進めていく。
「さてさて、お正月記念ということで! 今夜は環太平洋プロレスの試合同時中継を敢行しちゃうよ! 対戦カードはわれらが鎮守府の誇る金剛型戦艦・榛名&霧島姉妹、バーサス、にっくき深海棲艦の上位種・戦艦タ級&南方棲戦姫!」
 環太平洋プロレス。子日の口からその単語が放たれた刹那、会場の熱はひときわ高まりを見せる。興奮のあまりすでに泡を吹いて失神しかけている者すら見受けられる始末。
 子日の発表に前後して、闘技場の天井から金属製のアームが下降してくる。アームは雨傘の骨組みのように抱え込んだ数本の枝アームを可動させると、円状に花開いて巨大なブラウン管モニターを観客席の各方向にさしのばした。
 モニターが点灯する。
「おっと、試合会場とすでに中継がつながってるみたい。現場の黒潮ちゃーん! 聞こえるー?」
「はーい、こちら現場の黒潮でーす! 会場はあいにくの雨、海も時化っているけど試合には問題ないで! 榛名姉妹と敵さんコンビもスタンバイ済み。設備のセッティングが完了次第、すぐにでもはじめられるわ!」
「現場の黒潮ちゃん、ありがとう! というわけで、試合が始まるまでまだ少し時間があるみたい。それまで定例の上位表彰を行います!」
 名前を呼ばれた艦娘が順々にリングへと上がっていく。その様子を観客席から見るともなしに見ていた祥鳳は、横一列に並んで表彰を待つなかに第六駆逐隊の面々を見つけた。



 きっかけは駆逐艦の勧誘だった。
「あの……すみません、今ちょっとお時間よろしいですか?」
 とある非番の日。祥鳳が鎮守府宿舎の廊下を歩いていると、ちっちゃな艦娘に声をかけられた。駆逐艦だろうか。いかにも気弱げな声色、落ち着かなさげにそわそわと辺りを視線を振りまいている。
「あら……あなたは――」
「第六駆逐隊の電です。……それで、今ちょっと、お時間よろしいですか?」
「ええ……構いませんけど……」
「あ、ありがとうございます。それではですね、お昼ごはんでもご一緒しましょうか……?」
「そうね、もういい時間ですし。食堂に行きましょう」
「……なのです」
 声を掛けてきておいて、主導権を取りたいのか取りたくないのか曖昧な態度。あまり面識のない年上相手に気後れしているのだろうか。祥鳳は首を捻りながら少女のあとを追った。
 お昼とあって食堂はそこそこに混み合っていた。祥鳳と電はおのおのに料理を選び、適当な空席を見つけると向かい合わせに座った。
「……定食、同じなのです」
「あら、ホントね。コロッケ好きなの?」
「なのです!」
 気まずい食事になりそうという当初の予感とは裏腹に、会話はそれなりに弾んだ。この「それなり」というのが肝要で、年頃の女子が好むようなきらびやかな話題を苦手とし、距離を置いてきた祥鳳にとっては、こうした何気ない雑談こそ、かけがえのない貴重な時間に思えたのだった。
「そういえば、何か用事があったんじゃないの?」
「……なんでしたっけ、忘れてしまったのです」
 祥鳳はすこし不思議に思ったが、疑問は久方ぶりの歓談の楽しさに紛れてすぐにどこかへ行ってしまった。

 それから、祥鳳は折にふれて電と昼食をとるようになった。声をかけてくるのはきまって電の方からで、それも事前に約束するわけではないから昼前になると祥鳳はいつもそわそわするようになったが、もとよりさして人付き合いのあるわけでもない彼女のこと、誰かに訝しまれることもなかった。
 こんな私に付き合ってくれる年下の貴重な「友人」を逃してはならない。内心高まる焦燥感と切迫感はある種の感情にも似て日毎に焦燥を追い詰めつつあった。
 そんなときである。電にある話を持ちかけられたのは。



 ジャブ、ジャブ、ストレート、ストレート、右フック。相手を怯ませて後ろに回り込んでからのヘッドロック、からの足払い。マウントを取ってワン、ツー、ワン、ツー。
 戦艦タ級は堪らず悲鳴を上げる。

 環太平洋プロレスでは一切の兵器の使用は固く禁じられている。したがって艦娘はおのが腕一本での殴り合いを強いられる。しかしながら、海上の肉弾戦には体系化された戦闘教義など存在しない。この競技の歴史はごく浅いからだ。スタイルはシンプルにただひとつ、相手をただ殴って殴って殴って殴る。蹴りはめったに出ない。なんとなれば、足元のおぼつかない水中で片足を上げることは相手に自らの弱点を晒すことと同義であるから。せいぜいが控えめなローキックで互いの下半身を打って足腰に揺さぶりを掛けるくらい。うまく相手の体勢を崩せれば儲けものだ。環太平洋プロレスにおいてフィールドに倒れ込むことはほとんどそのまま敗北を意味する。なにせ呼吸ができない。鼻や口に容赦なく襲いかかる海水の攻め手に抗いながら、どうして相手のマウントポジションから脱することができようか。
 カポエラ? 海のまっただなかで逆立ちしながら呼吸と視界を確保する方法があるなら、とっくに広まっていることだろう。


【中略】


 闇夜のした、四つの艦影が波を蹴立てておどるおどるおどるおどる。


【中略】



 子日講の起源は「甲子待」に遡るとされる。十干十二支にいう甲子の日、子の刻(午後十一時頃)まで夜更かしして大黒天を祀る習慣が江戸時代には各地でみられた。子は鼠、鼠は大黒天の使いとされたのである。この甲子待をおこなう寄り合い(講)が、一部の地域では生活の相互扶助団体としての性格を持つようになって頼母子講・無人講に代表されるような庶民金融の一種「子日講」に発展し、明治の御一新ののちも形を変えながら生き残り現在に至る。これが団体の公式説明である。
 無論、かかる講釈は仮冒に過ぎない。甲子待は廃れてこの方久しい習俗であるし、ましてや現存する社団法人子日講とは何の繋がりもない。中枢スタッフの生半な知識と口から出任せに任せて広まった、ただの箔付けである。
 はじまりは提督の――現任の傀儡提督ではなく前任者の――発案した窮余の一策であった。
 かつて本省は各鎮守府に「副業」を黙認していた時期がある。といってもつい数年前のこと。当時、政府の財政難は深刻さを増す一方であり、予算削減の対象は安全保障分野も例外としなかった。聖域無き構造改革。かくて地域防衛の要たる鎮守府にあろうことか独立採算制が導入され、財務上の自活を余儀なくされた。かかる時局に対して他鎮守府にあっては商社を設立し深海棲艦ビジネスに乗り出す者、あるいは農業分野に進出する者、なかには関所を設置して通行税を徴収する者などさまざまな動きがあったが、あいにくと当該鎮守府はそうしたバイタリティある人材にも、新規事業へ進出する資金にも事欠いていた。
 ただでさえ戦争とはそれ単体では宿命的な赤字産業である。暴力的なまでの勢いで資源を費消し生命を肉塊に変える、生産性の概念とは対極に位置する営みであり、したがって国庫からの予算拠出が大幅にカットされた現状では遠からず、財政破綻を免れない。ひとたびそうなってしまえば職員はもちろんこと艦娘もおまんまの食い上げ、燃料も弾薬もなければドックでおねんねしながら敵艦隊の一方的な空襲と砲撃がもたらすみじめな最期を待つしかあるまい。
 いつしか鎮守府全体を悲愴感が覆い、かくなる上は麾下の艦娘を料亭かキャバレー・クラブにでも出稼ぎに出そうか、という冗談のような提案が半ば本気で検討されはじめたころ、それまで黙して動かなかった当時の提督が突如として乾坤一擲のプランを発表した。それが、当時国民のあいだで全国的な流行をみせていた内職「クッキー焼き」である。
 クッキー焼き。その名の通りクッキーを焼いて売る、あるいはどこかの業者に納入するだけの内職であり、一家の家計の足しならまだしも鎮守府の財政を補うには、職員以下、艦娘総出となっても到底追いつくものではない。じじつ、最初にこのプランを耳にした者のなかには、提督は金欠のあまり気がへんになってしまったのか、と疑う向きもあった。
 ところがどっこい、さにあらず。アメリカ帰りを自称するこの提督は一味違った。提督は現地で学んできたと称する新奇な販売形態をクッキー焼きに持ち込み、一時は大成功を収めた。本人がmulti-level baking system(MBS)と名付けたこの手法は、ただクッキーを焼くにあらず、「焼く権利を連鎖的に販売してリベートを徴収する」という点で当時としては画期的なアイディアであった。
 MBSのしくみはおおよそ次の通りだった。まず鎮守府は担当の行政区域内にクッキーの専売制を布告する。――向後、クッキーの製造・販売は鎮守府の専権事項とする。許可を得ない民間のクッキー事業はこれを厳しく取り締まる、と。無論、これだけでは当然市民から反発の声が上がるし、クッキー製造は官吏の目の届かぬ地下へと潜ってしまうだろう。そこで鎮守府は同時に「クッキーを焼く権利」の連鎖販売制度を施行した。これこそがMBSを他の、一次的な手数料収入を目的とする単純な利権商売と峻別するしくみの根幹である。まず、市民は鎮守府に手数料を払ってクッキーの製造・販売の許可を得るわけだが、これは権利であるにもかかわわらず、一人の名義で何件でも自由に購入できる。しかも任意のタイミングで他者に譲渡――転売できるものとされた。実態としては許認可権というよりも金融商品に近い。さらに、転売の際は一件の権利を二個以上に分割することが奨励され、利益の一部を鎮守府キックバックするように義務づけた。
 するとどうなるか。市民は買い手を見つけて次々権利を売りつければ売りつけるほど儲かるようになるし、これと同時に鎮守府は濡れ手で粟のごとくリベート収入で潤うという寸法である。「MBSはわずらわしいクッキー作業からあなたを解放します!」「あなたの代わりにあなたの隣人が、よそ者が、後進国のおばあちゃんがクッキーを焼く!」といったキャッチコピーは先の見えない不景気と情勢不安のなかで内職に疲れた大衆のハートを鷲掴みにし――そしてわずか一年足らずで破綻した。
 当然の結果であった。MBSはその原理上、無限の人口を要求する。でなければ早晩、権利の買い手がいなくなってしまうからだ。そして、鎮守府行政区域内に在住する市民の人口は有限である。ゆえに破綻した。疑いようのないロジック。
 本省の対応は迅速であった。身内の不祥事は揉み消すにかぎる。買い手のつかない権利書を後生大事に抱えた市民が対応を求めて鎮守府に押し掛けるようになるかならないかの頃には、さっくりと提督は更迭されて遠方の前線に送られた。表向きは悪化する戦況を打開するために優秀な指揮官を配置するという名目になっていたが、何のことはない、ていのいい口封じである。程なくして当該前線は崩壊し全軍撤退、混乱のさなかで行方不明となった前・提督の消息はいまだ掴めないという。
 あわせて、市民に対しては権利の無効を宣言する布告が行われた。貧乏クジを引かされたと騒ぎ立てる人々にはいくらかの――権利書の額面金額にはとうてい足りない額の――保証金、それから口外無用の念押し(という名の脅迫)が突きつけられておしまい。
 鎮守府の中でもこの事件は無かったことになっている。

「――――というのは表向きの話。あれだけの規模にまで膨張した組織が、破綻ですよはいそうですか、で済まされるわけないでしょ」
 目前の少女はさっぱりと言い切る。華奢な体躯に似合わぬ横柄な喋り。
「いくら戦時下でも、本省の力が絶大でも、出来ることと出来ないことがある。事態の張本人を『転勤』させることは可能。けど何千何万もの市民相手に片っ端から同じことはできない。それにMBSの網の目は一般市民にかぎらず、鎮守府の職員や艦娘にも広がっていたから。組織が大きすぎて潰せないレベルになってた」
「そこであなたがたに御鉢が回ってきた、と」
「うんそう。そもそも鎮守府の財政難っていう元々の問題はまったく解決してなかったし。あの提督ったらMBSの利潤を全部アイドル育成事業に突っ込んでたのよ。信じられる?」
 おおげさに溜め息をついて頭を掻くと子日は話を続けた。
「その点を差っ引いてもあの人のやり方は手ぬるかった。財政状況を改善するんなら、収入を増やすだけじゃなくて支出も見直さなきゃ、片手落ちってもんでしょ」