東部市場前

過去から来た猿

『春萌』。今更(2006年のゲームは実に今更と称されるべきである)クリア。

大学入学を控えた端境期の青年が東京と田舎の対比において前者から後者を訪ね(帰省し)、一種のモラトリアムの日々を送るという形式、旅立ちと別れのガジェットとしての鉄道など、まるきり近代文学である。舞台であるところの北海道は北空知、能登萌における生活のディテールは妙に凝っており地元民をも唸らせるものがある。3月に道路をバイクで疾走とか突っ込んではいけない。
灰音さんがもう圧倒的にエロすぎて作り手の業を垣間見させるのだが(とはいえCGがテキストとまるで合ってないのが残念ではあるけれど)、彼女自身のルートは前述の場所の対比と切り離せない形式でほんのりと後味の悪さを残す。一時の夢のような交わりと別離、でもよかった気がしないでもないのだが、まあここに前述の近代文学テイストとエロゲーのジャンル規範の衝突を見てもよくて、ふたりは結ばれなければならないわけです。こうした据わりの悪さは実のところメインの3人のルートにも見られて、エンディングクレジットのための話の区切りとしてしか機能していない別離(勿論ここで暗に示唆しているのは話の区切りのために各ヒロインが死ぬ某ゲーム)、その後に控える大して感興なきふたりの再会と生活、なのであった。
まあ実は文学とかどうでもよくて、そうした淡々とした空気、一応盛り上げようとしているけどそんなに盛り上がってなくてでもそれはそれでよい、というような作品ではあったのかもしれない。